ておいた方がいいと思った

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ておいた方がいいと思った


「おばさんに力を捨てろなんて言ったじゃないか。そんなことをしたら生きていけないよ」
「なあに、あいつはおまえが思っておるよりも、はるかに強い女さ」ベルガラスは安心させるように言った。「それにたしかにアルダーの言うことにも一理あるぞ。いかなる結婚といえど、そのような不釣り合いがあってはうまくいくはずがない」
 光輝く神々の輪のなかから、怒ったような声が飛んだ。「だめだ!」それはすでにこの世にはないマラグ人の神、泣き続けるマラの声だった。「わたしの民が無残に殺され、いまだに冷たく横たわっているというのに、なぜたった一人の人間を助けなければならない? そもそもアルダー兄上はわたしの嘆願を聞き入れなかったではないか。わたしの子供たちが殺されたときに助けになど来てくれただろうか? わたしは断固反対する」
「これは予想外の展開だ」ベルガラスがつぶやいた。「これ以上事態が悪くなる前に何とか手を打たねば」老人は崩れた石の散らばる廃墟をつかつかと歩き、神々の前でうやうやしく一礼した。「どうかわたしの不遜な割りこみをお許し下さい」老人は言った。「ですが、わが〈師〉の弟神におかれましては、マラグ人の女性をさしあげる見返りに、この男をよみがえらせるご助力をいただけませんでしょうか」
 永遠に流れ続けるマラの涙が一瞬とまり、驚いたような表情にかわった。「マラグの女性だと?」かれは鋭く聞き返した。「そのようなものが存在するはずはない。マラゴーで生きのびたわが子一人でもいようものなら、わたしがそれを知らぬはずはない」
「むろんおっしゃるとおりでございましょう、マラの神よ」ベルガラスは急いで答えた。「ですが、マラゴーから連れ去られ、永遠の奴隷におとしめられた者たちについてはご存じですかな?」
「そのような者を知っておると申すのか、ベルガラス」マラの声はわらにもすがらんばかりだった。
 老人はうなずいた。「われわれは彼女をラク?クトルの奴隷の檻で発見いたしました。名前はタイバと申します。今のところ生きのびた者は彼女一人しかおりませんが、神の慈愛をいただければ、種族の血は必ず保持されるものと確信いたしております」
「して、わが娘タイバは今どこにおるのだ?」
「ウルゴ人のレルグのもとに庇護されております」ベルガラスは答え、さらにさりげなくつけ加えた。「どうやら双方とも深く心ひかれあっているようですが」
 マラは考え深げに老人の顔を見た。「いかに神が慈愛を注いだとて、種族は一人だけで維持することはできない。最低二人は必要だ」そう言うとかれはウルの方を振り向いた。「そのウルゴ人をわたしにいただけませんでしょうか、父上。かれはわたしの民の父祖となることでしょう」
 ウルはベルガラスに見透かすような視線を送った。「レルグには他の義務があることをおまえは先刻承知しておるはずだが」
 ベルガラスはほとんどちゃめっけたっぷりな表情を浮かべてみせた。「それについてはわたしとゴリムとで何とか調整いたしましょう、もっとも聖なるお方よ」老人は最大限の自信をこめて言った。
「ですが、何かお忘れじゃありませんか。ベルガラス」シルクがさも邪魔するのを恐れるようにおずおずと口をはさんだ。「レルグにはちょっとした問題があるんですよ」
 ベルガラスはきっと小男をにらんだ。
「いや、いちおう言っだけですよ」シルクは無邪気に言った。
 マラが鋭い視線で二人を見た。「いったいそれはどういうことだ」
「いや、なに、ほんのちょっとした問題がありまして」ベルガラスは急いで言った。「ですがタイバは必ずや克服できると思います。この件に関してはわたしは絶大な自信を持っております」
「いいや、わたしとしてはぜひ真相を聞いておきたい」マラはかたくなに言った。
 ベルガラスはため息をつき、再度シルクをにらみつけた。「レルグは狂信者なのです、マラ殿。宗教的な理由により、ある種の――何というか人間的接触を断っておるのです」
「だが父親になることはかれの運命なのだ」ウルは言った。「かれから生まれるのは特別な子供になるのだから。その点についてはわたしからよく説明しておこう。レルグは恭順な人間だから必ずやわたしの命令とあらば従うことだろう」
「それならば、かれをくださるのですね、父上」マラがせきこむようにたずねた。
「あの男はおまえのものだ。ただしひとつだけ条件がある――だがそれについては後で語ることにしよう」
「それではこの勇敢なセンダー人を何とかいたしましょう」そう答えたマラの顔にはすでに涙の後は見られなかった。
(ベルガリオン)ガリオンの内なる声が呼びかけた。
(何だい)
(友人の蘇生はすべておまえの肩にかかっている)
(ぼくにだって? なぜぼくなんだ?)
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